鉤虫症(こうちゅうしょう)- 感染症

鉤虫症(こうちゅうしょう hookworm infection)は、鉤虫と呼ばれる寄生虫への感染が原因で発症する感染症です。

熱帯・亜熱帯の土壌中に生息する鉤虫は、主に裸足で歩行中に皮膚から体内へ侵入します。

鉤虫が小腸内で成虫に成長すると、ヒトの血液を吸って栄養を奪うため、重症化した際には貧血を引き起こすリスクも。

ここでは、鉤虫症に関して、詳しく解説していきます。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

鉤虫症(こうちゅうしょう)の種類(病型)

鉤虫症には、アメリカ鉤虫症とアンキロストーマ症の2つの種類があり、それぞれ感染経路や分布域などに違いがあります。

アメリカ鉤虫症

アメリカ鉤虫症は、ネカトール・アメリカーヌス(Necator americanus)という鉤虫が引き起こします。

特徴説明
感染経路経皮感染(皮膚からの侵入)
主な分布域北米、中南米、アフリカ、東南アジア
寄生部位小腸

アンキロストーマ症

アンキロストーマ症は、アンキロストーマ・デュオデナーレ(Ancylostoma duodenale)という鉤虫が原因で起こります。

特徴説明
感染経路経口感染(口からの侵入)、経皮感染
主な分布域地中海沿岸、中東、インド、東南アジア
寄生部位小腸

鉤虫症の地理的分布

鉤虫症の種類によって、主な分布域が異なります。

アメリカ鉤虫症は、北米、中南米、アフリカ、東南アジアに多く見られ、アンキロストーマ症は、地中海沿岸、中東、インド、東南アジアに分布。

鉤虫症(こうちゅうしょう)の主な症状

鉤虫症の診断には、検査だけでなく、症状からの判断も大切です。

消化器症状

鉤虫症の代表的な症状の一つが、消化器症状で、 感染者の多くに、腹痛や下痢、吐き気などの症状が出ます。

これらの症状は、鉤虫が小腸内で成虫となり、粘膜を損傷することが原因です。

また、鉤虫が放出する物質が腸管の蠕動運動を促進し、下痢を起こすことも示唆されています。

症状頻度
腹痛70-80%
下痢50-60%
吐き気30-40%

貧血

もう一つの重要な症状が、貧血です。 鉤虫は宿主の小腸内で血液を吸って栄養分を得るため、染者は慢性的な出血状態に陥り、貧血症状を呈することがあります。

  • 顔色不良
  • 倦怠感
  • 動悸
  • 息切れ
症状頻度
顔色不良60-70%
倦怠感50-60%
動悸30-40%
息切れ20-30%

重症化した場合、ヘモグロビン値が著しく低下し、生命を脅かすリスクも生じ得ます。 妊婦や小児では特に、貧血による影響が大きいです。

皮膚症状

鉤虫症では、皮膚症状も見られることがあり、鉤虫の幼虫が皮膚から体内へ侵入する際に、かゆみや発疹が生じます。

これは、幼虫が皮膚を通過する過程で起こる炎症反応が原因です。

ただし、この症状は感染初期にのみ認められ、時間の経過とともに消失することが多いとされます。

その他の症状

主要なもの以外にも、鉤虫症ではさまざまな症状が報告されています。

食欲不振、体重減少、発育障害などがその例ですが、これらは非特異的な症状であり、他の疾患でも見られるので、これだけでは判断できません。

鉤虫症(こうちゅうしょう)の原因・感染経路

鉤虫症は、土壌中の幼虫が皮膚から体内に侵入することで感染するので、感染経路を知ることが予防につながります。

鉤虫症の原因となる鉤虫の種類

鉤虫症の原因となる主な鉤虫には、2種類あります。

鉤虫の種類学名
アメリカ鉤虫Necator americanus
アンキロストーマAncylostoma duodenale

鉤虫の生活環

鉤虫の生活環は、以下のような過程を経ます。

  • 成虫が小腸内で産卵する。
  • 卵は糞便とともに体外に排出される。
  • 土壌中で卵から孵化した幼虫が成長し、感染力を持つようになる。
  • 感染力を持った幼虫が、皮膚から体内に侵入する。

鉤虫症の感染経路

鉤虫症の主な感染経路

感染経路説明
経皮感染土壌中の感染幼虫が皮膚から体内に侵入する
経口感染汚染された食物や水を介して幼虫が体内に入る

経皮感染が最も一般的な感染経路であり、裸足で汚染された土壌を歩くことで感染リスクが高まります。

鉤虫症の感染リスク因子

鉤虫症の感染リスクを高める要因がいくつかあります。

  • 衛生状態の悪い環境での生活
  • 汚染された土壌との接触
  • 適切な履物を着用しないこと
  • 汚染された食物や水の摂取

検査方法

鉤虫症は、特徴的な症状を示すことが多いものの、確定診断を下すには各種検査が欠かせません。

糞便検査

鉤虫症の診断において最も重要な検査が、糞便検査です。 この検査では、患者さんの糞便中に鉤虫の虫卵が存在するかどうかを顕微鏡で調べます。

虫卵の検出の方法

検査法感度特異度
直接塗抹法70-80%90-100%
集卵法80-90%90-100%
濃縮法90-100%90-100%

濃縮法は、他の手法と比較して感度が高いものの、手技が煩雑であるという欠点があります。

一方、直接塗抹法は簡単ですが、軽度の感染では偽陰性となる可能性があるため注意が必要です。

血清学的検査

糞便検査と並んで大事な検査が、血清学的検査です。 この検査では、鉤虫感染に対する特異的な抗体を血液中から検出します。

代表的な血清学的検査

検査法感度特異度
ELISA法80-90%90-100%
間接蛍光抗体法70-80%80-90%

感染初期や軽度の感染では陰性となることがあるため、結果の解釈には注意が必要です。

また、他の寄生虫感染との交差反応により、偽陽性を示すこともあります。

画像検査

鉤虫症の診断に際しては、画像検査も補助的に用いられることがあります。

小腸造影検査では、鉤虫の寄生によって生じた小腸粘膜の異常所見を捉えることが可能です。

ただし、これらの所見は非特異的であり、他の疾患でも認められ得るため、確定診断には至りません。

画像検査は、あくまで他の検査結果と組み合わせて総合的に判断する必要があります。

鉤虫症(こうちゅうしょう)の治療法と処方薬

鉤虫症は、寄生虫が引き起こす感染症ですが、治療を行うことで、鉤虫を体内から排除し、症状を改善することができます。

鉤虫症の治療目的

鉤虫症の治療目的

治療目的説明
寄生虫の排除体内に寄生している鉤虫を駆除すること
貧血の改善鉤虫による吸血によって引き起こされた貧血を改善すること

鉤虫症の治療薬

鉤虫症の治療の主な薬剤

  • アルベンダゾール
  • メベンダゾール
  • ピランテルパモ酸塩

通常、単回または短期間の投与で十分な効果が得られます。

鉤虫症の治療の流れ

鉤虫症の治療の流れ

治療の流れ説明
診断症状や検査結果に基づいて鉤虫症と診断する
薬剤の選択患者の状態に応じて適切な治療薬を選択する
投与医師の指示に従って薬剤を投与する
経過観察治療後、症状の改善や副作用の有無を確認する

鉤虫症治療の注意点

鉤虫症の治療を行う際の注意点

  • ・妊婦や小児への投与には注意が必要
  • ・他の薬剤との相互作用に注意する
  • ・再感染を防ぐために、衛生環境の改善が重要
  • ・貧血が重度の場合は、鉄剤の補充が必要となることがある

治療に必要な期間

鉤虫症の治療に必要な期間は、患者の状態や感染の程度によって異なります。 治療期間に影響を及ぼす主要な因子についてみていきましょう。

感染の重症度

治療期間を左右する最も重要な要因の一つが、感染の重症度です。 軽度の感染であれば、比較的短期間の治療で改善が期待できます。

一方、重度の感染では、治療に長期間かかることが少なくありません。

重症例では、貧血などの合併症を併発していることも多く、合併症の対応も必要です。

感染の重症度治療期間
軽度2-4週間
中等度4-8週間
重度8週間以上

患者の年齢と全身状態

患者の年齢や全身状態も、治療期間に影響を与える要因です。 一般に、高齢者や基礎疾患を有する患者さんでは、治療反応性が不良となる傾向があります。

また、小児では成人と比べて感染の進行が速く、早期の治療介入が大切で、免疫不全の患者さんは、治療期間の延長が必要なことも。

患者背景治療期間への影響
高齢者治療反応性の低下
基礎疾患あり治療反応性の低下
小児感染の急速な進行
免疫不全治療期間の延長

予後と予防

鉤虫症の治療では、患者さんの予後は良好です。 ただし、不適切な環境が改善されない限り、再感染のリスクは常にあります。

治療後の予後

治療により、鉤虫症の症状は改善され、貧血などの合併症も、原因となる鉤虫の排除に伴って回復に向かいます。

ただし、長期間の感染によって生じた臓器障害が完全に修復されるには、一定の時間を要することも。

また、成長期の小児では、発育が追いつくまでに数ヶ月から数年をかかることもあります。

予後の指標改善までの期間
症状の消失1-2週間
貧血の改善1-2ヶ月
臓器障害の修復数ヶ月以上
発育の追いつき数ヶ月から数年

再感染のリスク

鉤虫症の治療後は、再感染のリスクに十分な注意が必要です。

特に、流行地域に居住していたり、不衛生な環境に曝露される機会が多い場合は、再感染の可能性が高くなります。

再感染を繰り返すことで、鉤虫症の病状は徐々に悪化していき、貧血の進行や、成長障害などの合併症も生じやすくなるので注意が必要です。

再感染のリスク因子
流行地域への居住
不適切な衛生環境
裸足での外出
土壌汚染の放置

再発予防の重要性

鉤虫症の再発を防ぐためには、治療と並行して予防策を講じることが大切です。 特に、感染源となる土壌の衛生管理が欠かせません。

以下のような取り組みが求められます。

  • 適切なトイレの使用と維持管理
  • し尿の衛生的な処理
  • 土壌汚染の防止
  • 衛生教育の徹底

加えて、定期的な検査により、感染の早期発見・早期治療に努めることも大切です。

社会的な取り組み

鉤虫症の予防には、社会的な取り組みも欠かせません。

  • 衛生インフラの整備
  • 衛生管理体制の強化
  • 住民への啓発活動
  • 定期的な集団検査の実施

鉤虫症(こうちゅうしょう)の治療における副作用やリスク

鉤虫症の治療には、駆虫薬の投与が行われますが、その際には副作用やリスクを考慮する必要があります。

鉤虫症治療薬の主な副作用

鉤虫症の治療に用いられる薬剤の副作用

薬剤主な副作用
アルベンダゾール頭痛、めまい、吐き気、腹痛、発疹
メベンダゾール腹痛、下痢、吐き気、頭痛、めまい
ピランテルパモ酸塩腹痛、吐き気、頭痛、めまい、眠気

副作用は一般的に軽度で一過性ですが、症状が重篤なときは医師に相談してください。

特定の患者さんにおけるリスク

患者さんによっては、鉤虫症治療薬の使用にリスクが伴うことがあります。

  • 妊婦や授乳婦
  • 肝機能障害や腎機能障害のある患者
  • 高齢者
  • 小児

これらの患者さんでは、治療薬の選択や投与量の調整に注意が必要です。

薬剤の相互作用の注意点

鉤虫症治療薬は、他の薬剤と相互作用を起こす可能性があります。

薬剤相互作用の可能性がある薬剤
アルベンダゾールシメチジン、デキサメタゾン、カルバマゼピンなど
メベンダゾールシメチジン、フェニトイン、カルバマゼピンなど
ピランテルパモ酸塩ピペラジン、テオフィリン、ジゴキシンなど

保険適用・治療にかかる費用

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

鉤虫症の保険適用

鉤虫症の治療は、日本の公的医療保険の適用対象です。

保険の種類適用の有無
国民健康保険適用あり
社会保険適用あり
後期高齢者医療保険適用あり

鉤虫症の治療薬費用

鉤虫症の治療に用いられる主な薬剤と費用

薬剤名費用(自己負担額)
アルベンダゾール1,000円~2,000円程度
メベンダゾール1,000円~2,000円程度
ピランテルパモ酸塩500円~1,000円程度

これらの費用は、保険適用後の自己負担額です。ただし、薬剤の種類や投与量によって異なることがあります。

治療費用の補助制度

鉤虫症の治療費用が高額になるときは、補助制度が利用できることがあります。

  • 高額療養費制度
  • 医療費控除
  • 自治体の医療費助成制度

上に記載した治療費用は目安であり、実際にはより高くなることもありますのでご了承ください。保険適用の可否については、診察時に担当医師に直接ご確認ください。

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