メジナ虫症 – 感染症

感染症の一種であるメジナ虫症(dracunculiasis)とは、ギニアワームと呼ばれる寄生虫が引き起こす感染症です。

メジナ虫は汚染された水を介して人体に侵入し、皮下組織内で成長し、成虫の体長は50cmを超えることもあり、皮膚に潰瘍を形成します。

感染が成立すると激しい痛みに襲われ、歩行が困難になるなどの症状も。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

メジナ虫症の種類(病型)

メジナ虫症には、いくつかの異なる病型があり、症状や経過が大きく異なります。

急性メジナ虫症

急性メジナ虫症は、メジナ虫の幼虫に感染してから数週間以内に発症する病型です。

この病型では、感染部位の皮膚に炎症や水疱が形成されます。

病型発症までの期間
急性メジナ虫症数週間以内
慢性メジナ虫症数ヶ月から数年

慢性メジナ虫症

慢性メジナ虫症は、メジナ虫の成虫が体内で長期間生存することで発症する病型です。

この病型では、感染部位の皮膚に潰瘍や瘻孔が形成され、 また、慢性メジナ虫症では、以下のような合併症を引き起こす可能性があります。

  • 細菌性の二次感染
  • リンパ管炎
  • 関節炎

無症候性メジナ虫症

無症候性メジナ虫症は、メジナ虫に感染しているものの、明らかな症状を示さない病型です。

病型症状の有無
急性メジナ虫症あり
慢性メジナ虫症あり
無症候性メジナ虫症なし

感染部位による分類

メジナ虫症は、感染部位によっても分類することができ、 主な感染部位は、下肢、上肢、体幹などです。

メジナ虫症の主な症状

メジナ虫症は、ギニアワームという寄生虫が引き起こす感染症であり、激しい疼痛や潰瘍の形成などが特徴的な症状として知られています。

激しい痛み

メジナ虫症において最も顕著な症状は、感染部位に生じる激しい痛みです。

ギニアワームが皮下組織内で成長を遂げ、体外への脱出を試みる過程で強い痛みが引き起こされます。

痛みの種類特徴
灼熱痛火傷をしたような痛み
刺すような痛み鋭利な物で刺されるような痛み

潰瘍形成

ギニアワームが皮膚表面に到達した際には、その部位に潰瘍が形成され、 潰瘍の好発部位は下肢であり、数cmに達することもあります。

潰瘍からギニアワームの一部が飛び出している所見が特徴的といえるでしょう。

アレルギー反応

ギニアワームの抗原に対する宿主のアレルギー反応により、いくつかの症状が現れることがあり、ギニアワーム抗原に対する免疫応答の結果として生じると考えられています。

アレルギー症状頻度
発疹比較的多い
掻痒感比較的多い
浮腫まれ

二次感染

ギニアワームによって形成された潰瘍は、しばしば二次感染の原因となります。

細菌が潰瘍部位から侵入することで化膿性炎症が起き、発熱や倦怠感などの全身症状を伴うことも。

メジナ虫症の原因・感染経路

メジナ虫症の原因と感染経路にはいくつかの特徴が見られます。

病原体

メジナ虫症の原因となるギニアワーム(学名:Dracunculus medinensis)は、線虫の一種で、成虫のメスは体長50~120cmにも及ぶ寄生虫で、ヒトの皮下組織内に寄生します。

ステージ主な特徴
成虫(メス)体長50~120cm
幼虫体長約0.5~2mm

ヒトへの感染経路

ギニアワームがヒトに感染する経路は次の通りです。

  1. ギニアワーム幼虫に感染したケンミジンコをヒトが水と共に摂取する
  2. ヒトの胃内でケンミジンコが消化され、幼虫が遊離する
  3. 幼虫は腸管壁を貫通して腹腔内に移行し、皮下組織内へと至る
  4. 皮下組織内で幼虫が成虫へと成長する

ギニアワームに汚染された水の飲用が、本症の主な感染原因となります。

成虫メスの体外脱出

ギニアワームの成虫メスはヒトの皮下組織内で約1年間寄生した後、体外への脱出を図り、この過程で激烈な疼痛を伴う皮膚の腫脹と潰瘍形成が生じます。

潰瘍部が水に接触すると体内の幼虫が水中に放出され、新たなギニアワームのライフサイクルが始まることに。

期間できごと
感染後1年ほど成虫メスが皮下組織内に寄生
感染後1年以降成虫メスが体外に脱出

ギニアワームのライフサイクル

ギニアワームの生活環はヒトと淡水域の2つの環境で営まれ、 幼虫がケンミジンコに感染し、これを摂取したヒトの体内で成虫へと成長します。

さらに、成虫メスが体外に脱出して幼虫を水中に放出することで、次世代へとライフサイクルがつながっていくのです。

診察(検査)と診断

メジナ虫症の診察と診断においては、いくつか大切なことがあります。

問診と身体所見

メジナ虫症の診察では、詳細な問診は欠かせません。

  • 流行地域への渡航歴の有無
  • 生水摂取の有無とその時期
  • 皮膚症状の出現時期と経過

身体所見では、下肢を中心に皮膚の入念な観察が必須です。

ギニアワームが体外へ脱出しようとする部位には、特徴的な紅斑や丘疹、時には潰瘍が認められます。

部位所見
下肢紅斑、丘疹、潰瘍
上肢まれに紅斑、丘疹

検査

ギニアワームの虫体を検出して、確定診断します。

検査方法検出対象
虫体の引き出し成虫
顕微鏡検査幼虫

さらに、補助的な検査として血液検査や画像検査が行われることもあり、 血液検査では炎症反応の有無を、画像検査では虫体の存在を評価します。

臨床診断

メジナ虫症の臨床診断は、いくつかの条件を満たすことが必須です。

  • 流行地域への渡航歴が存在すること
  • 特徴的な皮膚所見が認められること
  • 患部から虫体が確認されること

メジナ虫症の治療法と処方薬

メジナ虫症の治療では、外科的治療、薬物療法、包帯療法、リハビリテーションなどを組み合わせます。

外科的治療

メジナ虫症の外科的治療では、 感染部位の皮膚に形成された水疱や潰瘍から、メジナ虫を物理的に取り除きます。

治療法目的
メジナ虫の除去感染源の除去
感染部位のデブリードマン感染組織の除去
皮膚の縫合創傷の閉鎖

薬物療法

抗寄生虫薬や抗菌薬を使用することで、メジナ虫の駆除や二次感染の予防が可能です。

メジナ虫症の治療に用いられる主な薬剤

薬剤名作用
イベルメクチンメジナ虫の駆除
アルベンダゾールメジナ虫の駆除
メトロニダゾール二次感染の予防

包帯療法

感染部位を清潔な包帯で覆うことで、二次感染のリスクを減らすことができます。

  • 感染部位の保護
  • 滲出液の吸収
  • 外部からの刺激の遮断

リハビリテーション

感染部位の機能回復を目的とした運動療法や物理療法なども行います。

リハビリテーションの効果

  • 関節可動域の改善
  • 筋力の維持・向上
  • 日常生活動作の回復

治療に必要な期間と予後について

メジナ虫症は適切な治療により予後は比較的良好ですが、治癒までには一定の期間が必要です。

虫体除去の重要性

メジナ虫症の治療で最も重要なのは、寄生中のギニアワームの虫体を完全に除去することです。

虫体の残存は炎症や二次感染の原因となり、治療期間の長期化や予後の悪化を招きます。

虫体除去の効果内容
炎症の軽減虫体が原因となる炎症反応を抑えることができる
二次感染の予防虫体が残存することで起こりうる細菌感染を防げる

虫体除去の方法と期間

ギニアワームの虫体除去には次のような方法があります。

  • -虫体を徐々に引き出す方法(数週間を要することもある)
  • -虫体周囲を切開して取り出す方法(比較的短期間で完遂可能)

いずれの方法でも虫体を無理に引っ張ることなく、慎重に除去することが大事で、虫体の完全除去には数週間から1ヶ月以上を要することもあります。

二次感染の予防と治療

虫体除去の過程では、潰瘍部から細菌が侵入し二次感染を起こすことがあり、その際は抗菌薬の投与が必要で、さらに治療期間が延びます。

二次感染の起こりやすい時期理由
虫体除去中潰瘍部が開放創となるため
虫体除去後潰瘍部の治癒が完了するまでの間

メジナ虫症の予後

治療を行うと、メジナ虫症の予後は概ね良好で、多くの場合、虫体の完全除去と潰瘍の治癒が得られます。

ただしまれに後遺症として関節拘縮や神経障害が起こることも。

メジナ虫症の治療における副作用やリスク

メジナ虫症の治療では、外科的治療や薬物療法などが行われますが、これらの治療法には副作用やリスクが伴います。

外科的治療の副作用とリスク

外科的治療では、メジナ虫の除去や感染部位のデブリードマンなどが行われます。

外科的治療の副作用やリスク

副作用・リスク内容
出血手術中や術後に出血が起こる可能性がある
感染手術部位に細菌が侵入し、感染が起こる可能性がある

さらに、傷跡や神経の損傷のリスクもあります。

薬物療法の副作用とリスク

薬物療法では、イベルメクチンやアルベンダゾールなどの抗寄生虫薬が使用されます。

副作用・リスク内容
悪心・嘔吐薬剤の投与により、吐き気や嘔吐が起こる可能性がある
腹痛薬剤の投与により、腹部の痛みが起こる可能性がある

包帯療法の副作用とリスク

包帯療法では、感染部位を清潔な包帯で覆うことで、二次感染のリスクを減らしますが、皮膚の刺激 、アレルギー反応、包帯の圧迫による血行障害の可能性もあります。

リハビリテーションの副作用とリスク

リハビリテーションでは、感染部位の機能回復を目的とした運動療法や物理療法などが行われます。

リハビリテーションのリスクとしては、疼痛の増強、過度な負荷による組織の損傷、関節の不安定性などがあります。

予防方法

メジナ虫症の予防においては、ギニアワームの生活環を遮断することが大切です。

安全な水の確保

メジナ虫症の予防において最も重要なのは、安全な飲料水の確保です。

ギニアワームの幼虫は汚染された水中のケンミジンコに寄生しており、その水を飲用することで感染が成立します。

必要な対策

  • 井戸水や湧水など、安全性の確認された水を飲用する
  • 池や沼の水は浄水処理を施してから飲用する
水源安全性
井戸水比較的安全
池や沼の水危険

水源の管理

ギニアワーム幼虫を含む水の飲用を避けるためには、水源の管理も大切で、いくつかの対策が考えられます。

  • 水源の周囲に柵を設置し、人や動物の立ち入りを制限する
  • 定期的な水源の清掃により、汚染を防止する

水源管理の状況によってメジナ虫症の発生リスクは大きく左右されます。

水源の管理メジナ虫症のリスク
適切低い
不適切高い

感染者の早期発見と治療

メジナ虫症の感染者を早期に発見し治療することも、予防に寄与します。 感染者から排出されたギニアワーム幼虫の水中への拡散を防げるからです。

健康教育の推進

メジナ虫症の予防には住民への健康教育も欠かせません。

  • メジナ虫症の感染経路と症状
  • 安全な水の重要性
  • 感染が疑われる場合の対応

治療費について

軽症の際は、保険適用となれば自己負担額は比較的少額ですが、重症になると高額な治療費が必要となることもあります。

また、保険適用外の治療を行う際は、治療費は全額自己負担となるため、非常に高額です。

メジナ虫症の治療費は、重症度や保険適用の有無によって大幅に変動します。

以上

References

Greenaway C. Dracunculiasis (guinea worm disease). Cmaj. 2004 Feb 17;170(4):495-500.

Ruiz-Tiben E, Hopkins DR. Dracunculiasis (Guinea worm disease) eradication. Advances in parasitology. 2006 Jan 1;61:275-309.

Cairncross S, Muller R, Zagaria N. Dracunculiasis (Guinea worm disease) and the eradication initiative. Clinical Microbiology Reviews. 2002 Apr;15(2):223-46.

Muller R. Dracunculus and dracunculiasis. Advances in parasitology. 1971 Jan 1;9:73-151.

Eberhard ML, Ruiz-Tiben E, Hopkins DR, Farrell C, Toe F, Weiss A, Withers Jr PC, Jenks MH, Thiele EA, Cotton JA, Hance Z. The peculiar epidemiology of dracunculiasis in Chad. The American journal of tropical medicine and hygiene. 2014 Jan 1;90(1):61.

Hopkins DR, Ruiz-Tiben E, Eberhard ML, Weiss A, Withers Jr PC, Roy SL, Sienko DG. Dracunculiasis eradication: are we there yet?. The American journal of tropical medicine and hygiene. 2018 Aug;99(2):388.

Biswas G, Sankara DP, Agua-Agum J, Maiga A. Dracunculiasis (guinea worm disease): eradication without a drug or a vaccine. Philosophical Transactions of the Royal Society B: Biological Sciences. 2013 Aug 5;368(1623):20120146.

Hopkins DR. Dracunculiasis: an eradicable scourge. Epidemiologic reviews. 1983 Jan 1;5:208-19.

World Health Organization. Dracunculiasis surveillance. Weekly Epidemiological Record= Relevé épidémiologique hebdomadaire. 1982;57(09):65-7. Hopkins DR, Ruiz-Tiben E, Kaiser RL, Agle AN, Withers Jr PC. Dracunculiasis eradication: beginning of the end. American Journal of Tropical Medicine an

免責事項

当記事は、医療や介護に関する情報提供を目的としており、当院への来院を勧誘するものではございません。従って、治療や介護の判断等は、ご自身の責任において行われますようお願いいたします。

当記事に掲載されている医療や介護の情報は、権威ある文献(Pubmed等に掲載されている論文)や各種ガイドラインに掲載されている情報を参考に執筆しておりますが、デメリットやリスク、不確定な要因を含んでおります。

医療情報・資料の掲載には注意を払っておりますが、掲載した情報に誤りがあった場合や、第三者によるデータの改ざんなどがあった場合、さらにデータの伝送などによって障害が生じた場合に関しまして、当院は一切責任を負うものではございませんのでご了承ください。

掲載されている、医療や介護の情報は、日付が付されたものの内容は、それぞれ当該日付現在(又は、当該書面に明記された時点)の情報であり、本日現在の情報ではございません。情報の内容にその後の変動があっても、当院は、随時変更・更新することをお約束いたしておりませんのでご留意ください。