アニサキス症 – 感染症

アニサキス症(anisakiasis)とは海産魚介類に寄生しているアニサキスという線虫の幼虫を生きたまま摂取することによって発症する食中毒のことです。

魚の内臓や筋肉に寄生しており、生きた状態で人間の胃や腸に入ると粘膜に食い込んで激しい腹痛や吐き気などの症状が起こります。

日本では生魚を食べる習慣があるため、アニサキス症は比較的よく見られる感染症の一つです。

今回は、アニサキス症について詳しく解説していきます。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

アニサキス症の種類(病型)

アニサキス症は、いくつかの病型に分類され、それぞれの病型には特徴があり、症状や治療法も異なります。

急性胃アニサキス症

急性胃アニサキス症は、アニサキス幼虫が胃壁に侵入することによって引き起こされる病型です。

感染後、数時間以内に上腹部痛、吐き気、嘔吐などの症状が現れるのが特徴的です。

内視鏡検査により、胃壁に刺入したアニサキス幼虫を確認し、摘出することが診断と治療を兼ねています。

病型症状出現までの時間主な症状
急性胃アニサキス症数時間以内上腹部痛、吐き気、嘔吐
急性腸アニサキス症1〜2日下腹部痛、下痢

急性腸アニサキス症

急性腸アニサキス症は、アニサキス幼虫が腸管壁に侵入することによって引き起こされる病型です。

感染後、1〜2日で下腹部痛や下痢などの症状が現れ、腸閉塞や腸重積などの合併症を引き起こすことがあるため、注意が必要です。

内臓外アニサキス症

内臓外アニサキス症は、アニサキス幼虫が消化管以外の臓器に入り込むことによって引き起こされる病型です。

  • 腹腔内
  • 腸間膜
  • 肝臓
  • 膵臓

内臓外アニサキス症は、急性胃アニサキス症や急性腸アニサキス症と比較してまれです。

病型迷入部位
内臓外アニサキス症腹腔内、腸間膜、肝臓、膵臓、肺など
アニサキス アレルギー皮膚、呼吸器、消化器など

アニサキス アレルギー

アニサキス アレルギーは、アニサキス抗原に対するアレルギー反応によって引き起こされる病型です。

皮膚の発疹やかゆみ、呼吸困難、腹痛、下痢などの症状が現れ、アナフィラキシーショックを引き起こす危険性があるため、速やかな対応が求められます。

アニサキス症の主な症状

アニサキス症の症状は人によって異なりますが、代表的な症状をいくつかみていきます。

急性胃アニサキス症の症状

急性胃アニサキス症の主な症状は、激しい上腹部痛で、この痛みは、アニサキスが胃壁に侵入することで起こります。

その他の症状

  • 悪心や嘔吐
  • 腹部の膨満感や不快感
  • 発熱や倦怠感

急性腸アニサキス症の症状

急性腸アニサキス症の症状

症状詳細
下腹部痛激しい痛みが特徴的
悪心・嘔吐頻繁に起こることがある
下痢水様性または粘血便

アレルギー症状

まれではありますが、アニサキスに対するアレルギー反応が起こることがあります。

アレルギー症状

症状詳細
皮膚の発疹やかゆみ蕁麻疹などが現れる
呼吸困難喉の腫れによって引き起こされる
ショック症状血圧低下や意識障害を伴う

アニサキスアレルギーは、重篤な症状につながる危険性があるため注意が必要です。

症状の持続期間

アニサキス症の症状は、通常は数日から数週間程度で自然に軽快しますが、症状が遷延化し、長期間にわたって持続することもあります。

症状が長引くようであれば、適切な医療機関を受診し、検査や治療を受けてください。

アニサキス症の原因・感染経路

アニサキス症の感染経路は、主に魚介類からです。

アニサキス症の原因

アニサキス症を引き起こすのは、アニサキス属の線虫という寄生虫で、 クジラやイルカといった海洋ほ乳類の胃や腸管に寄生しています。

寄生虫の卵は、ほ乳類の糞便と一緒に海水中に排出され、 卵からかえった幼虫は、オキアミなどの甲殻類に取り込まれ、そこで成長するのです。

さらに、これらの甲殻類を捕食した魚介類の体内で、幼虫は成虫へと成長します。

アニサキス症の原因説明
アニサキス属の線虫クジラやイルカなどの海洋ほ乳類の胃や腸管に寄生
ほ乳類の糞便とともに海水中に排出される
幼虫オキアミなどの甲殻類に取り込まれ、成長する
成虫甲殻類を捕食した魚介類の体内で成長する

アニサキス症の感染経路

人間がアニサキス症に感染するのは、主に次のような経路によるものです。

  • 幼虫が寄生している魚介類を生食したり、加熱が不十分だったりした場合
  • 幼虫が寄生した魚介類の内臓を触った手で、食べ物を触ったり口に入れたりした際

アニサキスに感染している魚介類を食べることで、アニサキス症を発症するリスクがあります。

アニサキス症の感染経路リスク
生食高い
加熱不十分高い
内臓を触った手で食べ物を触る高い
内臓を触った手で口に入れる高い

感染リスクを下げるために

アニサキス症の感染リスクを下げるために、いくつかの点に気をつけてください。

  • 魚介類は十分に火を通して食べること
  • 魚介類を調理する際は、内臓に触れないように注意すること
  • 調理器具は清潔に保ち、交差汚染を防ぐようにすること
  • 冷凍保存された魚介類を選ぶ

アニサキス症の検査方法について

アニサキス症は、いくつかの検査方法により、診断できます。

血液検査によるアニサキス症の診断

血液検査は、アニサキス症の診断に有用な検査方法の一つです。

アニサキス症に感染すると、体内で特異的な抗体が産生されるので、この抗体を検出することで、アニサキス症の診断が可能となります。

血液検査の種類検出対象
ELISA法アニサキス特異的IgG抗体
ウェスタンブロット法アニサキス特異的IgG抗体
間接蛍光抗体法アニサキス特異的IgG抗体

内視鏡検査によるアニサキス症の診断

内視鏡検査は、アニサキス症の確定診断に不可欠な検査方法です。

内視鏡を用いて、消化管内を直接観察することで、アニサキス虫体の有無を確認できます。

アニサキス虫体の特徴

  • 白色から淡黄色の細長い虫体
  • 長さは20~30mm程度
  • 消化管壁に刺入していることが多い

内視鏡検査で虫体を発見したら、その場で虫体を除去することが可能です。

検査部位観察ポイント
胃壁への虫体の刺入
十二指腸十二指腸壁への虫体の刺入
小腸小腸壁への虫体の刺入

画像検査によるアニサキス症の診断

画像検査は、アニサキス症による合併症の評価に有用です。

  • 腹部超音波検査
  • 腹部CT検査
  • 腹部MRI検査

消化管壁の肥厚や腹水の有無など、アニサキス症に伴う合併症の評価ができます。

アニサキス症の治療法と処方薬

アニサキス症は、治療を行うことにより完治できます。ここでは、アニサキス症の治療法と処方される薬について説明しましょう。

内視鏡による虫体の除去

アニサキス症の治療において最も重要なのは、内視鏡を用いて虫体を取り除くことです。

内視鏡検査で虫体の位置を特定し、鉗子で虫体をつかんで体外に取り出します。

抗寄生虫薬の投与

内視鏡で虫体を除去した後、再感染を防ぐために抗寄生虫薬を投与します。

代表的な抗寄生虫薬

薬剤名投与方法副作用
ピランテルパモ酸塩経口腹痛、下痢、嘔吐
アルベンダゾール経口頭痛、発疹、肝機能障害
イベルメクチン経口発疹、かゆみ、めまい

症状に対する対症療法

アニサキス症では、腹痛や嘔吐などの症状が現れたときは、以下のような対症療法が行われます。

  • 鎮痛薬の投与
  • 制吐薬の投与
  • 補液による脱水の予防と治療
  • 安静の指示

外科的治療

内視鏡で虫体を除去するのが難しかったり、腸閉塞などの合併症が疑われる場合は、外科的治療が検討されることも。

開腹手術により虫体を取り除き、必要に応じて腸管の切除や吻合を行います。

治療法適応リスク
開腹手術内視鏡での除去が困難な場合出血、感染、術後癒着
腹腔鏡下手術比較的軽症な場合出血、感染、術後疼痛

外科的治療は侵襲性が高いため、患者の全身状態や合併症の有無を考慮し、慎重に適応を判断しなければなりません。

治療に必要な期間と予後

アニサキス症は、症状の重さや合併症の有無などによって、必要な治療期間や予後が変わってきます。

治療期間と予後の概要

軽症の場合、数日から1週間程度で症状が改善することが多いです。

一方、重症の場合や合併症を伴う場合は、入院治療が必要となることがあり、治療期間が長引く可能性があります。

症状の重症度治療期間の目安
軽症数日から1週間程度
中等症1週間から2週間程度
重症2週間以上

合併症と治療期間の関係

アニサキス症では、消化管穿孔や腸閉塞などの合併症を伴うことがあり、その場合、治療期間は長引き、入院治療が必要となることもあります。

合併症治療期間の目安
消化管穿孔2週間から4週間程度
腸閉塞2週間から4週間程度
腹膜炎4週間以上

予後

アニサキス症の予後は良好であり、適切な治療を受けることで、ほとんどの場合完治します。

ただし、治療が遅れたり、合併症を伴ったりするときは、治療期間が長引き、予後が悪化することも。

アニサキス症の治療における副作用やリスク

アニサキス症の治療には内視鏡的な虫体の除去や投薬などがありますが、それぞれ副作用やリスクがあるため注意が必要です。

内視鏡的治療の副作用とリスク

内視鏡を用いた虫体の除去は、アニサキス症の主な治療法ですが、出血、穿孔、感染、麻酔による合併症などの副作用やリスクがあります。

投薬治療の副作用とリスク

アニサキス症に対する投薬治療では、消化器症状を緩和するための制酸剤や鎮痛剤、抗アレルギー薬などが用いられます。

薬剤主な副作用
制酸剤下痢、便秘、腹部膨満感
鎮痛剤胃腸障害、肝機能障害、腎機能障害
抗アレルギー薬眠気、口渇、便秘

外科的治療の副作用とリスク

内視鏡的治療が難しい場合や、合併症を伴う際には、外科的治療が必要となることがあります。

手術の種類主なリスク
開腹術感染、出血、癒着
腹腔鏡下手術腹腔内臓器損傷、出血、ポート部の合併症

治療後の注意点

アニサキス症の治療後は、再感染を予防するために次の点に注意が必要です。

  • 生の魚介類を避ける
  • 調理の際は十分に加熱する
  • 冷凍保存された魚介類を選ぶ

保険適用・治療にかかる費用

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

アニサキス症の治療費用

アニサキス症の治療費用は、症状の重症度や治療方法によって変わってきます。

症状治療方法概算費用
軽症内服薬数万円
中等症内視鏡的摘出10万円前後
重症手術、集中治療数十万円~数百万円

アニサキス症の保険適用

アニサキス症の治療には、健康保険が適用されます。

保険が適用される範囲や自己負担額は、加入している健康保険の種類や医療機関によって異なることがあります。

上に記載した治療費より高くなることもございますので、予めご了承ください。

また、保険適用の可否は診察時に担当医師に直接ご確認ください。

References

Sakanari JA, Mckerrow JH. Anisakiasis. Clinical microbiology reviews. 1989 Jul;2(3):278-84.

Van Thiel PH. Anisakiasis. Parasitology. 1962;52(3/4).

Mattiucci S, D’Amelio S. Anisakiasis. InHelminth infections and their impact on global public health 2014 Mar 21 (pp. 325-365). Vienna: Springer Vienna.

Adroher-Auroux FJ, Benítez-Rodríguez R. Anisakiasis and Anisakis: An underdiagnosed emerging disease and its main etiological agents. Research in veterinary science. 2020 Oct 1;132:535-45.

Mattiucci S, Cipriani P, Levsen A, Paoletti M, Nascetti G. Molecular epidemiology of Anisakis and anisakiasis: an ecological and evolutionary road map. Advances in parasitology. 2018 Jan 1;99:93-263.

Bao M, Pierce GJ, Pascual S, González-Muñoz M, Mattiucci S, Mladineo I, Cipriani P, Bušelić I, Strachan NJ. Assessing the risk of an emerging zoonosis of worldwide concern: anisakiasis. Scientific reports. 2017 Mar 13;7(1):43699.

López‐Serrano MC, Gomez AA, Daschner A, Moreno‐Ancillo A, De Parga JM, Caballero MT, Barranco P, Cabañas R. Gastroallergic anisakiasis: findings in 22 patients. Journal of gastroenterology and hepatology. 2000 May;15(5):503-6.

Baird FJ, Gasser RB, Jabbar A, Lopata AL. Foodborne anisakiasis and allergy. Molecular and Cellular Probes. 2014 Aug 1;28(4):167-74.

Bier JW. Anisakiasis. InLaboratory Diagnosis of Infectious Diseases: Principles and Practice 1988 (pp. 768-774). New York, NY: Springer New York.

Oshima T. Anisakiasis—is the sushi bar guilty?. Parasitology Today. 1987 Feb 1;3(2):44-8.

免責事項

当記事は、医療や介護に関する情報提供を目的としており、当院への来院を勧誘するものではございません。従って、治療や介護の判断等は、ご自身の責任において行われますようお願いいたします。

当記事に掲載されている医療や介護の情報は、権威ある文献(Pubmed等に掲載されている論文)や各種ガイドラインに掲載されている情報を参考に執筆しておりますが、デメリットやリスク、不確定な要因を含んでおります。

医療情報・資料の掲載には注意を払っておりますが、掲載した情報に誤りがあった場合や、第三者によるデータの改ざんなどがあった場合、さらにデータの伝送などによって障害が生じた場合に関しまして、当院は一切責任を負うものではございませんのでご了承ください。

掲載されている、医療や介護の情報は、日付が付されたものの内容は、それぞれ当該日付現在(又は、当該書面に明記された時点)の情報であり、本日現在の情報ではございません。情報の内容にその後の変動があっても、当院は、随時変更・更新することをお約束いたしておりませんのでご留意ください。